日本の春の象徴とも言える桜。
国内の桜の8割を占め、その代表的な品種といえるのがソメイヨシノです。
満開の美しさはもちろん、散りゆく姿さえも本当にきれいですよね。
実は、このソメイヨシノが間もなく「一斉に寿命を迎える」という説があるのをご存じですか?
日本から桜の名所が消える……そんな噂が囁かれるようになった背景には何があるのでしょうか?
そこで今回は
- ソメイヨシノの寿命は本当に短い?
- 寿命60年説の真実
- ソメイヨシノの由来
こんな知識を草花が好きな私がお届けします。
ソメイヨシノの寿命は短い?60年って本当?
ソメイヨシノの寿命が短いというのは事実です。
ソメイヨシノは、樹齢30~40年をピークに樹勢の衰退が始まると考えられています。
てんぐ巣病などの病気に弱く、一般的にソメイヨシノの寿命は60年ともいわれています。
他の桜と比べると山桜で200~300年、最も長寿のエドヒガンに至っては500年以上と言われていますから、ソメイヨシノがいかに短命であるかが分かります。
【桜の寿命の比較表】
■山桜→200~300年
■江戸彼岸桜(エドヒガン)→500年以上
ソメイヨシノの寿命は花の咲く時期や幹の様子などで判断できます。
ソメイヨシノの寿命が短い理由
ご存じの方もいらっしゃるかと思いますが、ソメイヨシノは限られた原木から生まれたクローンです。
つまり日本各地にあるソメイヨシノは、すべて同一人物(ならぬ同一桜)なんですね。
「親・兄弟」という関係ではなく、すべて同じDNAを持った「コピー」というわけです。
そうした特性のため自力で繁殖することができないので、全て「接ぎ木」や「挿し木」で増やしてきました。
まるで一枚の紙から何枚もコピーを取るように。
よって、すべての株が同一に近い特性を持ち、植えられた時期が同じなら同時期に寿命を迎えてしまいます。
このソメイヨシノが日本各地に大量に植えられたのが、戦後から東京オリンピックにかけてです。
それから60年を過ぎようとする今、一斉に寿命を迎えてもおかしくありません。
そんな事情を背景に「ソメイヨシノ寿命60年説」は広まったのだと考えられます。
確かに、桜の名所と言われる場所で老木化したソメイヨシノが目につきますよね……。
生まれたのは最近だった!ソメイヨシノの由来
そもそも、ソメイヨシノとはどんな桜なのでしょうか。
ソメイヨシノが生まれたのは江戸時代後期~明治初期。
場所は、園芸の町として知られた江戸(東京)の染井村。
この染井村で、エドヒガン系の桜と日本固有種のオオシマザクラを交配させた園芸品種として誕生しました。
桜の名所、奈良県の吉野山にちなみ「吉野桜」として売られましたが、山桜が多い吉野の桜との混同を避けるため「ソメイヨシノ」と、その名が変更されました。
現代では桜の代名詞ともいえるソメイヨシノですが、その歴史は意外と浅いのです。
ソメイヨシノが日本全国に広まった理由
ソメイヨシノがここまで日本全国に広がったのには、いくつかの理由が考えられます。
まず1つには、その成長スピードの速さが挙げられるでしょう。
ソメイヨシノは、10年程で立派な木に成長するため、短期間で桜の名所を作ることが可能です。
また、花にボリュームがあり、見栄えがするため花見に適していることも理由のひとつと言えるでしょう。
加えて、葉より先に花が咲くため、葉が邪魔することなく花のみを堪能できることも魅力です。
こうして明治時代以降、各地の学校や公園、街路樹や河川敷などに植えられて日本を代表する桜になりました。
寿命が尽きたソメイヨシノは倒木の危険性が!
樹齢60年を経過したソメイヨシノの中には、枝の落下や倒木の危険がある場合も少なくありません。
2011年には東京都国立市で、倒木した樹齢約50年のサクラが車2台を直撃したことがニュースになりました。
国立市は、180本のうち半数を伐採する計画をたてましたが、住民からの反対を受け、伐採を34本に減らしたそうです。
このように、立ち枯れの危機を迎えたソメイヨシノを伐採する動きは全国で見られます。
伐採した桜は、家具や花台、薪などに再利用する他、チップたい肥化するなど様々な方法で有効活用されています。
一方で、伐採自体を防ごうと、木の適切な管理を行う活動にも注目が集まっています。
樹木医の適切な診断を受け、正しい方法で剪定し、殺虫剤や肥料の与え方にも気を配ることで、木の寿命は延びるそうです。
実際、桜の名所・青森県弘前市の弘前城には、樹齢100年を超えるソメイヨシノが300本以上あります。
【こちらがその弘前公園にあるソメイヨシノの枯木(樹齢134年)です】
そしてそれらは、人の手により適切な処置を施されてきた木々なのです。
つまり、「ソメイヨシノの寿命60年説」は、このまま何もしなかった場合に起こりうる現象であると言えます。
まとめ
全国各地で老木の伐採や植え替えが進む中、ソメイヨシノに代わる品種として注目されているのが「ジンダイアケボノ」です。
ソメイヨシノによく似ていますが、より多くの花を密生して咲かせ、枝や葉にも香りがあります。
病気への耐性が強く、樹はやや小ぶりで街路樹に適しています。
桜の名所を作りや花のある街づくりを行う公益財団法人花の会では、平成17年度からソメイヨシノの配布を中止し、21年度には販売も中止しました。
代わってジンダイアケボノを推奨しているそうです。
今の子供達が大人になる頃には、桜と言えばジンダイアケボノになっているかも知れません。
やがて訪れるお花見シーズン。
桜を見て楽しむだけではなく、根や枝を傷つけないよう小さな心配りをすることで、この花の未来を守っていきたいと思いました。
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